危険だらけのリスクアセスメント

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危険だらけのリスクアセスメント

労働安全衛生法の改正により、平成28年6月1日から「化学物質のリスクアセスメント」が義務化されるとのことで、弊社にも某国立研究所様からソフトウエアのお問い合わせがありました。
なぜ弊社にお問い合わせがあったかと言うと、Webで「リスクアセスメント」を検索すると弊社が出てきたからだとのことでした。それもそのはずで、弊社はベイジアンネットワークのHuginを取り扱っており、ベイジアンネットワークは正確なリスクアセスメントには不可欠な数理的ツールだからです。
しかしながら、弊社は上記のお問い合わせに対して、「求められる仕様に合致する製品は取り扱っておりません」としか回答の仕方がありませんでした。某研究所様から送られてきた仕様書には、「Webサーバーにリスクアセスメント・システムが構築されて、Webブラウザからそれを利用できて、結果をPDFに出力できる」とか「CAS番号を入力してGHSおよびSDSのハザードアセスメントが表示できること」など、つまり事務的な観点での要求に終始しており、リスクの定量的な評価方法については一切触れられておりませんでした。
ちょっと調べてみるとわかったのですが、仕様書にあるような事務的な観点で作られた「化学物質のリスクアセスメント・システム」は、某協会の指導によって某民間会社が開発しております。つまり、上記のお問い合わせは、最初からそれを導入することが前提にあって、形式上、適正な公共調達の手続きを踏む必要があって、(同一の製品が他になければ随意契約が可能なので)同一の製品が他に存在しないことを確認するために、わざわざ弊社にお問い合わせを頂いたということのようです。
一応、手続き上は問題ないので上記のようにお答えした次第です。ユーザー様が求める仕様があって、それに合致している製品がなければ「ない」と答えるしかありません。
ただし、その仕様が本当にそのユーザー様が取り組む問題を解決するためにベストな仕様であるか?ということは別問題です。
「リスクアセスメント」(化学物質に限定せず)についてWebで調べてみると、国内での定量的なリスクアセスメントは、じつにお寒い状況です。どういうことかというと、つまり、事務屋さんの発想で、高度な数理が一切使われておりません。リスクというのはいくつかの悪条件が重なることによって増大するものですが、それぞれの条件にスコア(点数)が与えられていて、その合計を全体的なリスクとするというふうに説明されています。
実際にはそんな単純なものではありません。ある条件とある条件が重なると、単純な足し算ではく、急激にリスクが増大するということが起きます。スコアを合計するという単純なモデルでは、リスクを正確に評価することができません。つまり、こういうところにベイジアンネットワークの必要性があるのです。
ベイジアンネットワークを使ったリスクアセスメントと単純な足し算しかやっていないリスクアセスメントとでは、月とすっぽんなのですが、「リスクアセスメント」というカタカナ用語だけ見ていると、その中身の違いにはなかなか気づけません。現代の日本では、「カタカナ言葉の魔術師」が跋扈(ばっこ)して、物事の本質を覆い隠しております。
評点を合計するという単純すぎる分析方法の間違いは、企業の研究開発テーマや新規事業開発テーマの評価においても繰り返されてきました。80年代にあれほど世界を席巻する勢いであった日本の技術が、90年代を境に急激にその力を失くしてしまった原因の1つが、80年代に大手企業に導入された「戦略マネジメント手法」にあると、私はずっと訴え続けてきました。
戦略マネジメントが日本化されて導入されたときに、数理的手法がすっぽり抜け落ちて、カタカナ言葉の魔術に変質していたのです。文系中心で動かされている日本の組織の限界がそこにありました。

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