月別アーカイブ 12月 2019

投稿者:Kunihiro TADA

本当に恥ずかしい日本官庁のソフトウェアに対する無理解

世界の商用ソフトウェア市場の中で、日本はアップデートされていない古いバージョンのソフトウェアを何年も使い続ける市場として、恥をさらし続けています。日本のソフトウェア産業が発展できなかった理由として、言語や才能の問題がよく挙げられるのですが、本当の理由は、ソフトウェアに関する公正な取引が成り立っていないからだと私は思います。

※ここで言及している「ソフトウェア」とは、自社開発や受託開発されたソフトウェアではなく、ライセンス販売されている「ありもの」のソフトウェアに限っています。

そして、ソフトウェアの公正な取引を阻んでいる根本原因は、perpetual license(永続ライセンス)を「買取り」と言い換えて減価償却を適用するという間違った税務処理なのです。これのために、日本の官庁、大学、企業等で、ソフトウェアを3年から5年に1回しか買い換えられないという不都合が生じています。仮に価格が数千万円、数百万円であろうとも、ソフトウェア・ライセンスに減価償却を適用するのは完全に間違いです。その理由は2つあります:

  1. ソフトウェア・ライセンスというものは、すべて「使用の許諾」であり、ユーザーにソフトウェアの所有権は与えられていない。
  2. ソフトウェアのバージョンの耐用年数は1年未満であることが多く、アップデートには追加の費用がかかること。

これにより、減価償却の前提はまったく当てはまらないのです。

つまり、ソフトウェアというのは、お金を出してライセンスを買っても、それがユーザーの所有物になっているわけではありません。別の言い方をすると「財産処分権がない」ということです。転売ができないわけですから、ライセンスを購入した時点で、その交換価値はゼロになっています。

※ソフトウェアを開発したメーカーが持っているソースコードは確かに利益の源泉であり、間違いなく無形固定資産ですが、それをライセンス販売したコピーは、単に条件付きで動作するコピーであり、所有権が認められていないのですから、それを固定資産として計上するのは論理的に間違っているかと思います。

日本語でソフトウェアを使用できなくなる日が到来する

多くの商用ソフトウェアでは、継続的に新しいバージョンまたはリビジョンを開発しています。その理由には、

  1. 新しい技術やユーザー・ニーズに対応して、機能の改良や新機能の追加をする必要があること。
  2. ハードウェアやOS等の進展に伴って、ソフトウエアの動作を保証するために、継続的な改良が必要なこと。

などがあげられます。

つまり、ソフトウェアというのは、「生もの」であって、3年とか5年という長期間の耐用年数は保証されておりません。追加の費用を支払って、より新しいバージョンにアップデートしながら使用することが前提となっています。

ソフトウェアには「software license agreement(ソフトウェア・ライセンス同意書)というのが添付されています。不特定多数のユーザーにライセンスを販売するソフトウェアの場合、ユーザーごとに1件ずつ契約書を交わすことが物理的に不可能なのですが、ユーザーがライセンスを購入した時点で、この同意書に同意したことになっています。内容はどのソフトウェアでもだいたい同じです。そこにソフトウェアの所有権は、開発者のものであることが明記されております。それに伴って、次のことが禁止されています:

  1. ソフトウェアを第三者に転売、譲渡、または貸与すること。
  2. ソフトウェアを無断で改変・改ざんすること、あるいはリバース・エンジニアリングを行うこと。

とくに近年の役所では、あらゆる業務を外部委託していることが多く、その中で1の項目を違反していることが多いようです。役所で購入したソフトウエア・ライセンスを外部業者に使用させると、それはソフトウェアの不正使用となりますのでご注意ください。(これは公的研究機関でもたびたび見られます。)

日本の税務署がソフトウェアに減価償却を適用させ続ける限り、日本ではソフトウェアの公正な取引が行えません。

もはや世界は、ヨーロッパ、アメリカ合衆国、そして日本だけを中心として回っていた時代とは違います。アジアの国々が大きく発展して横並びになっています。今後、さらにアフリカの発展も期待されております。かつては世界市場の20%を日本が占めていた時代もありましたが、今や5%程度で、今後、さらに日本の存在感は縮小することが予想されます。そうした時代に、日本のソフトウェアに関する後進性を放置することは、国益を大きく損なうことになります。日本国内のソフトウェア産業が育たないだけでなく、グローバルなソフトウェア企業から見ても、日本は儲からない市場とみなされつつあるのです。これまでは日本語のサポートをしていた海外製ソフトウェアでも、儲からなければそうではなくなるということを意味します。このまま行けば、日本は自国の言語でコンピュータを使用できない後進国になってしまいます。

変遷するビジネス・モデルとキャッチアップできない官庁

ソフトウェアは購入後も追加の費用を支払って、より新しいバージョンにアップデートしながら使用することが必要なのですが、そのアップデートの方法(ソフトウェアのビジネス・モデルと言い換えることもできます)は、時代とともに変遷してきました。日本の官庁は、これにもキャッチアップすることができていなくて、意味不明なルールが発動されていて、ソフトウェアの公正取引をますます難しくさせております。

80年代(MS-DOSの時代)には、ソフトウェアはバージョンごとに購入するビジネス・モデルが主流でした。つまり、ユーザーがあるソフトウェアのあるバージョンを購入すると、それは動作条件を満たすシステム上では永続的に動作可能でした。次により新しいバージョンがリリースされたとき、もしユーザーがそれを「欲しい」と思えば、再度そのバージョンを購入することができ、「不要」だと思えば古いバージョンを使い続けることもできました。perpetual licenseが「買取り」として誤解される傾向は、この時代に醸成されたと言えるかもしれません。

しかし、コンピュータとインターネットの技術が進んでいくのに伴って、ソフトウェアのアップデート・サイクルはどんどん短縮されてきました。次に主流となったのが、年間保守契約という形態です。これはライセンス自体は永続(perpetual)ですが、購入後のバージョンアップに関しては、毎年その費用を支払う形態です。多くの場合、ユーザー・サポートを受けるのも、この年間保守契約が必要です。(これはパソコンのハードウェアを購入した場合に、1年後からの修理やサポート・サービスを有償で購入する必要があるのとほぼ同等と解釈することも可能です。)年間保守契約は、ベンダーの方針によって、強制の場合もあれば任意の場合もあります。

この辺から、日本の官庁の解釈が実態から大きくズレてきてしまった感があるのですが、それでもperpetual licenseが提供されている間は、解釈に齟齬を伴いながらも、それを提供することができていました。しかし、日本の官庁はそれを「買取り」と誤解しているわけですから、年間保守料は支払おうとはしないわけです。ユーザーがどうしても最新バージョンを使いたいという場合、「年間保守料という言葉は使わないで代金を請求するように」と指示されることもたびたびでした。(官庁が民間企業からの請求書に本質的な書き換えを指示するのは、厳密には法令に違反しています。)

ソフトウェア・メーカーは、莫大な費用をかけてソフトウェアの開発を継続していますので、年間保守料を支払って貰えないと大きな痛手となります。そこで、ついに永続ライセンスを廃止して、年間ライセンス等の期限付きライセンスに切り替えるに至りました。ただし、これは急激に進めると取引上のトラブルになりかねないので、まず永続ライセンスと年間ライセンスが共存する緩衝期間が何年間も設けられました。こうした期間を経て、最近の数年で永続ライセンスが完全に廃止される運びとなってきたわけです。

ちなみに、年間保守料のときと同様に、ユーザーが自らキャンセルしない限り、年間ライセンスの契約更新が自動で行われるのが、サブスクリプション方式だということができます。サブスクリプション方式は、ユーザーが最初に注文するときに、ウェブサイト上でそれを承認する形で契約がなされるのですが、それをユーザーが正確に認識できていない場合、トラブルになりやすい傾向があります。ユーザーは自分の意思でキャンセルできるにもかかわらず、それをしないで「勝手に代金が請求された」と言って、消費生活センターに駆け込んだりすることが起きます。今のところ、サブスクリプション方式は、マイクロソフトなどの巨大企業から先に導入するべきで、中小のソフトウェア企業は、今しばらく、一般の理解が高まるのを待った方がよさそうです。

究極的にはサブスクリプション方式に移行していかざる得ないのですが、官庁や企業など組織が顧客の場合も、サブスクリプション方式はまだちょっと時期尚早の感があります。これにはまだ数年以上かかりそうです。そこで現在は年間ライセンスが中心になるのですが、「毎年購入するのはたいへん」という顧客に対しては、複数年ライセンスを提供することで凌ぐことになりそうです。複数年ライセンスは、結果的に3年分程度で従来の永続ライセンスと同等になるような感覚です。しかも、その年数の間はずっとアップデート権が生きていますので、バージョンが古くなるという問題が解消されています。

最悪の場合は職権濫用で摘発される可能性も

かくして永続ライセンスが完全に廃止されると、今後、官庁とのソフトウェアの取引にいろいろと問題がでてきそうです。どうやら各省庁が出している研究予算では、「買取りは可だが、年間ライセンスは不可」、あるいはその逆などの摩訶不思議なルールが存在するらしいのです。よくあるのは、そのルールを持ち出して、「年度をまたがなければOK」として、たとえば「3か月分だけ」という注文の仕方をする場合があります。

ソフトウェアの種類によって、それに対応可能な場合もあれば、不可能な場合もあります。つまり、利用頻度が高く、ユーザーが常にそれを必要とするようなソフトウェアの場合、「使った分だけ課金」というビジネス・モデルが可能な場合もあります。一方、利用頻度が低いけれど、そのソフトウェアを使わないと、その特定の仕事ができないというような種類のソフトウェアの場合、「何時間、何日、そのソフトウェアを使用するか」は、価格とは何の関係もありません。ソフトウェア・メーカーは、開発・販売・ユーザーサポート等にかかる総コストをユーザーの頭数で割った分をライセンス料として受け取る必要があるのです。その最小単位を年間ライセンスとしているのであれば、それを変更して、より小さな単位で値付けすることは命取りになる場合もあります。

商用ソフトウェアはビジネスですので、基本的には、顧客からの要望にはなるべく柔軟に対応しようと努力します。率直なところ、国内の業者は官庁から指示されると、それに逆らうのはなかかなか難しいものです。損失を出してでも官庁に従おうとするかもしれません。ただし、優れたソフトウェアのほとんが海外で開発されていることを忘れないでください。日本独特の(ゆがめられた)解釈は、海外では通用しません。日本の官庁が国際的なルールを無視して、ソフトウェア・ライセンスを不公正な条件で取引していることが海外に知れると、当然のことながら、職権濫用として法的措置が取られる可能性が大です。

公共調達の担当官各位におかれましては、ソフトウェア・ライセンスの国際的なルールを理解された上で、公正な取引を心がけて頂けますようお願い申し上げる次第です。