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As One

As One
Mehrdad Baghai & James Quigleyほか, Penguin Group, 2011.
自己組織化マップの支援によって理論構築を行った新しいタイプのマネジメント論
かつて私はコンサルタント会社で事業戦略の立案をコンサルする部門で働いていました。しかし、そこで学んだ戦略理論にはとても不満を覚えました。そして、その不満はマネジメント論全般にまで及びました。
何がそんなに不満なのか?それは、「理屈が単純すぎる!」ということです。
何かの問題を解決するときに、あれこれ難しく考えるよりも、できるだけ単純化して考えるほうがうまくいくことが多いものです。しかし、それにしても「マネジメント理論の理屈は単純すぎる」というのが私の感想でした。私には現実の複雑性をあまりに強引に捨象し過ぎていると思えました。
後に私が自己組織化マップ(SOM)に深く関わるようになった動機が、この思いだったのです。
ここにご紹介する『As One』という本は、世界的なコンサルティング・ファームであるデロイト・トーシュ・トーマツにおける最新の研究です。
この本の最大の特長は、ViscoveryのSOMの支援によって、理論の枠組みを作成したという点です。マネジメント論に新風を吹き込んでおります。
この本の起点は、従来の大部分のマネジメント論では、集団のリーダーシップについて、あまりに単純な2つの分類法:
1.古い<指示-コントロール>モデル
2.新しい<アジル-適応>モデル
でしか考えてこなかったということへの反省です。
要するに、従来のマネジメント論は、論者の頭の中で考えた理想に現実を当てはめて理論を構築しているようなところがあるわけですが、この本の著者らは、そのような態度を改めて、事実に基づいて理論を構築しようとしています。そのためのカギとなる道具がSOMなのです。
この本では、SOMを用いて、データに基づいて、リーダーシップを8個の類型に分類しました。この本の中では、SOMの分析については詳しく書かれておりませんが、この本のすべては、ここから出発しているのです。
マネジメント問題にSOMを活用することのメリットは、理論(仮説/モデル)の構築だけでなく、新しいケースがどの類型に属しているか、そして、そのケースにどのような処方箋を与えることができるかの診断ができるという点にもあります。
現状を把握した上で、現状に何らかの変革をもたらすとしたら、どのようなことが可能で、どのようなことは可能でないかをSOMによって的確に知ることができます。これは戦略問題にも通じるところですが、つまり、着眼大局・着手小局で、視野を広げて全体的な観点から方向性を見定めつつ、現状からあまりに隔たった目標を掲げるのではなく、近いところから着実に攻めるというのが定石となります。
これらのステップは、実際にはSOM上で展開されるわけですが、本や論文を書く場合、これらの議論はSOMのユーザー以外には通じにくいのが難点です。『As One』では、そのような配慮からか、書中でSOMが登場するのは、最初のほうの数ページだけで、あとはSOMで作成した8つの類型を従来的な十字チャート(縦軸・横軸)の上に置き直して論を進めています。
私は常々、十字チャートの安易な使用には批判的です。何の根拠もなく、ただ分析者の勝手な決めつけによって、2つの因子軸を持ち出して、それによって物事を分類してしまうのは、適切な分析方法ではありません。しかし、この本の場合は、先に(あらゆる先入観を排して)SOMで分類を行ってから、そこから2つの軸を発見しています。十字チャートは、より多くの人々に著者の考えを伝えるために、コミュニケーションのツールとして使用しています。そういう点で、この本は、バランスのとれた方法を採っていると言えるでしょう。
中身の詳細については、実際に本を手に取って読んで頂ければと思いますが、明らかに、この本は、人文系の分野での新しい研究スタイルを提示しております。ぜひ参考にされて、新しい研究にチャレンジしてください。
SOMを使って、どのようなデータをどのように分析すればよいかは、弊社にご相談くだされば、アイデアをお出しできます。