スピード経営と仮説力

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スピード経営と仮説力

ここ1〜2年「仮説力」がちょっとしたブームになっているらしいです。
その背景には、経営環境の急激な変化のなか、スピード経営がますます重要になってきており、それを実現するためには「仮説構築」ということが不可欠になっているから、と考えられます。
で、「データマイニング」というと、こういうことと全く無関係で、悠長にコンピュータのデータをいじくっているようなイメージで見られることが多いです。しかし、私が自己組織化マップ(SOM)に着目して、現在、データマイニングの仕事に従事するようになった経緯は、まさに「スピード経営のための仮説構築」という問題にこだわったからなのです。
私は、80年代に技術トピックのセミナー・プランナーをやっていました。それは、「新しい技術が実用化されていよいよ事業化されそうだ」というタイミングを見計らって、「その技術情報を必要としそうな人々は誰なのか?」を想定してセミナーを企画するものでした。つまり、それは「先読み」であり「仮説構築」なのでした。
その後、私は大手コンサルティング会社のリサーチャに転身し、そこで見た世にもナンセンスな光景にはがっかりしました。当時、バブル前夜の好景気で、大企業は軒並み浮ついた雰囲気で、多角化経営に乗り出そうとしていました。それで「何かよい新規事業はないものか?」ということで、コンサルタントを雇って大々的な調査プロジェクトをやっていたわけです。
それでコンサルタントたちが企業に売り込んでいたのが、「システマティックな戦略策定」だったのです。「やみ雲に事業開発するのではなく、科学的な手順を踏んで関連情報を隈なく収集し、戦略理論に沿って合理的に分析・意志決定する」といったふうなことでした。このようなプロジェクトは通常、半年とか1年かけて行われるのですが、その間に何百ページもの報告書を作成するわけです。
結局のところ、そういう大調査で得られる情報というのは、すべて「後追いの情報」なわけです。コンサルタントも企業の担当者も優等生ですから、そつなく仕事をこなします。思い切った切り口で何かに焦点を当てたり、大胆な予測を立てるというよりも、情報の欠落がないことにとても気をつかいます。つまり、「失敗を避ける」というのが彼らの行動規範です。そんな調査ですから、事実情報を正確にまとめ上げることに集中します。そんなことに時間をかけているうちに、現実の世界はどんどん動いているわけです。
こういうことをしていた結果、企業がバブル期に行った多角化経営のほとんどは失敗に終わりました。コンサルタントたちは、「もともと新規事業とは成功率が低いもので、その中で我々がかかわった企業は高い成功率だった」と言い訳して、その後ものうのうと手を替え品を替え、同じようなことをやっているわけです。
こういうことに業を煮やして、私は90年代の初めから98年ごろまでにかけて、あまり商業的でない類の技術誌やマネジメント誌で、自分なりの仮説構築の方法について連載記事を書いておりました。この一連の議論が目指す手法を「概念調査」と名づけました。仮説構築のプロセスは、結局のところ、概念空間の調査だからでした。
連載記事の中では、認識論哲学をはじめ、社会学や発達心理学、言語学、レトリック論、アフォーダンス理論、オートポイエーシス論、複雑系などさまざまな分野を概観して、その共通項を切り出しました。しかしながら、連載をすべて書き終えても、何か釈然としないものが残りました。
私なりの「先読み」「仮説構築」の術を磨いたとしても、それはあくまでも個人的資質でしかなく、組織内で共有可能な知識となりにくいわけです。実際、私は数々の事業機会を予測しましたが、たいていその初期段階では、周りの人たちの食いつきは悪いです。2〜3年経ってから、それが現実のこととなってから、周りの人たちは動き始めます。事実が目の前に現れるまでは、たいていの人はそれを信じないのです。
概念を目に見えるようにするための技術的ツールはないものか?
ということをずっと考えていたんです。それである日、新聞の書籍広告の中から目に飛び込んできたのが「自己組織マップ」という文字でした。Kohonenの自己組織化マップは、80年代の学術テーマでした。80年代にニューロやファジィ、エキスパート・システムなどをテーマにセミナーを企画していた私ですが、正直、自己組織化マップにはまったく注目しておりませんでした。つまり、私のセミナーのテーマになるような事業性は見いだせなかったわけです。
しかし、そのときはなぜか直観(霊感?)が働きました。それから1年ぐらいあれこれ自己組織化マップ(SOM)について勉強した結果、ウィーンのEudaptics社(現・Viscovery社)がSOMineというソフトを出していることがわかり、それを購入してみたわけです。
それは思いっきり頭を殴られたような衝撃でした。私がそれまで10年以上もの間、(ない頭で)あれこれと考えていたことを、とっくにDr. Gerhard Krannerは製品として具現化していたのでした。
彼がソフトウェア・リサーチ・センターからスピンアウトして会社を設立したのが1994年で、最初の製品であるSOMineを完成させたのが1996年でした。私がはじめてSOMineを購入したのは、version 2.0で1999年でした。
その後、Viscoveryを通してSOMの実践的活用法を知るに伴い、「概念調査」で議論したすべてのことが、SOMを軸にして再構築できることに気付きました。私は、Viscoveryを通して、それまでチンプンカンプンだった統計解析や多変量解析も理解できることに感心しました。そして、同時に、世間でのSOMの活用法やその解説がトンデモない間違いだらけであることも知ったのでした。
Viscoveryは、直感的でビジュアルなデータマイニング・ツールであり、また仮説創造のツールでもあります。

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